クラブワーストタイの、リーグ戦6連敗中のヴィッセル神戸。
週の半ばに、クラブハウスのあるいぶきの森で、久々の公開練習を開催。平日にも関わらず800人のサポーターが駆け付けるなど、苦境の中でほんの少しの希望を感じさせました。
この日のはJ1第12節の横浜F・マリノス戦。攻撃サッカーを志向する相手から、何としても勝ち点を奪いたいゲームです。
両チームのスタメン
ヴィッセルのメンバーは、この日もイニエスタとポドルスキが不在。代わってウェリントンとビジャがツートップを組み、前節負傷した古橋の代役には田中が指名されました。
サイドバック(SB)の西を一列前のサイドハーフ(SH)で起用するなど、コンディション不良が相次ぐ中で苦しいやり繰りとなります。
一方のマリノスは4-2-3-1の並びで、ワントップにはE・ジュニオが復帰。好調のM・ジュニオールをトップ下に置き、遠藤、仲川の若きアタッカーコンビがサイドを担います。
【前半】互いにカウンターを打ち合う素早い展開
攻撃サッカーを志向する両チームの試合は、目まぐるしくボールが行き交うカウンターの打ち合いとなりました。
序盤は4-4-2が機能するヴィッセル
この日のヴィッセルは4-4-2の布陣。SHを置いたことで、序盤は守備の強度が保たれていました。マリノスの攻撃に対して、SBとSHが挟み込むような形を取ると、奪ってから素早いカウンターを披露。
とくに右SHの西は、裏抜けやパスのタイミングをズラすなど攻撃面での能力をいかんなく発揮。神戸に移籍後は見られなかった、「らしい」プレーを見せてくれます。
一方のマリノスも、キーパーを含めたポゼッションからパスを繋ぐ、お馴染みのスタイルでチャンスを伺います。立ち上がりこそヴィッセルのバランスの良い守りにてこずりますが、徐々に攻める時間が多くなっていきます。
鋭いカウンターからM・ジュニオールが先制点
先制点は前半30分でした。
左サイドでボールを奪ったマリノスは、素早くパスを繋ぐと、遠藤が一気にボールを持ち運びスルーパス。このボールをM・ジュニオールがダイレクトで合わせてゴールを奪いました。
マルコスはキム・スンギュのタイミングをズラすため、あえてダイレクトでシュート。低くコントロールされたボールの質も素晴らしく、見事なゴールでした。
ヴィッセルは0-0で均衡を保っていましたが、ゴールを奪えない展開にチーム全体の重心が前がかりに。失点の場面ではゴール前に数的同数を作られており、痛い失点となりました。
ただ、決してネガティブなシーンばかりの前半ではありませんでした。マリノスのハイラインの裏を狙う姿勢は共有されており、ハーフタイムの修正で流れを変えられる予感もあります。
前半は0-1でマリノスリードで折り返します。
【後半】最後の「たが」が外れてしまった神戸
ハーフタイムでの修正が期待されたヴィッセル。しかし後半はまさかの連続失点。チームがなんとかギリギリで踏みとどまっていた最後の「たが」まで外れてしまったような戦いぶりでした。
無残に翻弄されるヴィッセル守備陣
最初の追加点は66分。
途中交代で入った李忠成が、遠藤のマイナスのボールをしっかり合わせてゴールを奪いました。先制点もそうでしたが、マリノスは奪ってからゴール前に向かうスピードがずば抜けており、ヴィッセル守備陣はズルズルと下がって守るしかありません。
三点目も、途中交代で入った三好のゴール。
ティーラトンからのクロスをファー待ち構えていた三好がダイレクトでゴール。三好の手前では李忠成をディフェンスを引きつけるような動きでスペースを生み出していましたが、ヴィッセル守備陣のマークはルーズな状態でした。
仕上げの4点目も三好が決めます。
天野のループ気味のシュートをキム・スンギュが一度はセーブしますが、こぼれたボールを三好が決めてこの日2点目。
ヴィッセルは2失点目以降完全に集中力を切らしており、無残なまでにマリノスの攻撃に翻弄されました。
終了間際にウェリントンが1点を返すも、虚しさだけが残る展開。
試合はこのまま4-1で、マリノスの快勝で終了となりました。
突きつけられた現実。采配への疑問はこの日も…
この日のゲームを迎えるにあたって、ヴィッセルは久々の公開練習を経て、ややポジティブなムードが流れていました。サポーターからもチームの復活を期待する声が多く聞かれていましたが、マリノスから現実を突きつけられた形です。
同時に、吉田監督の采配には、この日も疑問が残りました。
繋ぐことに関してはマリノスが数枚も上手
やはりマリノスとヴィッセルでは、攻撃面で「繋ぐ」ことに関するスキルやポジショニングに大きな差がありました。
バルサ化の名前ばかりが先行しているヴィッセルですが、リージョ体制でも組織の構築はまだまだ始まったばかりでした。その上、リージョの契約解除後はみるみる内に積み上げてきたものが崩さっていきます。
昨年からマリノスを率いるポステコグルーは、リージョに負けず劣らぬパスサッカーへの執着を持った指揮官です。そのリーダーの元、成長を続けてきた今のマリノスは、チームとして何枚も上手に映りました。
なぜ3バックに変更したのか?
ただ、采配面で疑問が残ったことも確かです。
とくに気になったのは後半が進むにつれ、3バックで守るシーンが増えていったこと。橋本の負傷による一時的な措置かと思いましたが、終盤には渡部を起用しはっきりと3枚で守る形に変えてきました。
しかし、1トップで攻めるマリノスに対して、3バックはまったく意味を成しません。また、サンペールを起用して攻撃を活性化させたいはずなのに、ロングボールを放り込むシーンが増えていきます。これでは、彼の持ち味は生きず、むしろカウンターのリスクが高まるだけ。
結果とし、サンペール投入後にカウンターから2失点を奪われたのは皮肉としか言いようがありません。
苛立ちを募らせる選手たち、ベンチへの不満も?
後半には、ピッチ上の選手たちの多くが苛立ちを募らせていました。とくに、ビジャは不満をはっきりと見せており、ラフプレー気味のファールでカードを貰っています。ノーチャンスにも関わらずロングシュートを蹴るシーンも見られるなど、限界に達している様子でした。
また、ウェリントンやサンペール、ダンクレーといった外国籍選手たちは感情的になり、日本人選手たちも完全に気持ちが切れていました。ウェリントンの得点シーン後は、まさにしらけムード。ボールを拾いに行き選手は誰もいませんでした。
ここまでの試合、苛立ちを見せるシーンはありましたが、これほどはっきりとプレーに対するモチベーションを失ったゲームはありませんでした。自分たちへの不甲斐なさはもちろんですが、ベンチへの不満も多分に感じられます。
哀しみに暮れるイニエスタ、残された手は1つか…
長年ヴィッセルサポーターとしてクラブを追い掛け、降格やJ2での戦いも見守ってきましたが、さすがにクラブに漂うこれほどの悲壮感は初めての経験です。
なにより胸に詰まるのは、3失点目を奪われた直後のイニエスタのシーン。世界的なクラックの晩節としては、あまりに過酷すぎる状況でしょう。ヴィッセルサポとしてはもちろん、ひとりのフットボールファンとしても見ていられてない映像でした。
このブログでも何度か吉田監督の采配には疑問を呈してきましたが、もはや残された手は監督交代しかないでしょう。クラブとしては、7月のバルサ戦までなんとか…という思惑でしょうが、この日のマリノス戦の終盤にみせた選手たちのプレーぶりを見る限り、求心力は限界まで来ているように感じます。
吉田監督は現役時代もノエスタやいぶきの森で何度もエールを送っただけに、心苦しさも感じます。しかし、プレイヤーとマネージャーの役割は違い、求められる資質も異なります。
クラブとしてもこれだけの短期間で2度の監督交代は避けたいでしょうが、一刻の猶予もありません。ヴィッセル神戸というクラブを未来に繋げるためにも、決断を下すタイミングではないでしょうか。