天皇杯、リーグ戦と立て続けに王者川崎フロンターレを下したヴィッセル神戸。
ポジティブな空気がチームを包む中、この日対戦するのはサンフレッチェ広島です。
策士・城福監督率いるサンフレッチェは、戦術的にさまざまなアプローチを仕掛けてくる難敵。
この日もヴィッセルはその策を前に、苦しい戦いを強いられました。エディオンスタジアムで行われた一戦のマッチレビューをお届けします。
両チームのスタメン
ヴィッセルのスタメンは、前節と変わらないメンバー。
好調なときはチームをいじらないというスタンスで11人を送り出します。
一方のサンフレッチェは、ワンップにドウグラス・ヴィエイラを起用。トレーニング中の怪我で離脱していましたが、この日スタメンで復帰を果たします。
中盤にはこちらも長期離脱をしていた青山が、キャプテンマークを巻いてピッチに立ちます。
【前半】
前半開始からサンフレッチェは綿密なスカウティングを元に、ヴィッセル対策を講じてきました。
狙いを定めたのは、ダンクレーと西が守る相手の右サイド。立ち上がりからサンフレッチェは、徹底してこのエリアを突いてきました。
徹底した神戸戦略。左サイドを突いて中央にスペースを作る
サンフレッチェは柏と森島を中心に、左サイドから攻撃を仕掛けてきます。
西の裏のスペースやダンクレーとの間を狙うようなドリブル突破を図り、マーカーを誘い出します。
すかさず、この動きで生まれた中央のスペースにマイナスのクロスを供給。ヴィッセルの中央はぽっかりと穴が空いたような状況になってしまい、サンフレッチェの選手にフリーでシュートを打たれてしまいます。
(動画→0分9秒)
先制点はまさにこの形。
左サイドで佐々木→森島と繋ぎ、最後は稲垣がゴール。ゴール直前のシーンでは中央エリアが空いていることがよく分かります。
結果から言えば、サンフレッチェのこの日の作戦は、この形を徹底していました。中央に堅牢な3枚の壁があるなら、それをズラしてしまおうということ。
真ん中をカバーするのが、守備が本職ではないサンペールとイニエスタという部分も、城福さんの頭にあったでしょう。
ブロックの裏を突いて同点に持ち込む
サンフレッチェは得点を奪うと、それまでのプレスを弱め、後ろにブロックを敷く形へ変更します。
しかしこれがやや混乱していたヴィッセルには好都合で、ボールをゆっくりと繋ぎながらリズムを取り戻していきました。
この流れから生まれたのが、古橋の同点弾です。
前半19分、中盤まで下がってきたビジャがボールを受けると、サンフレッチェのブロックを裏に長いレンジのスルーパスを送ります。
これに反応したのが古橋。スピードを武器にするアタッカーは、一瞬でフリーになると、冷静なトラップからシュートを沈めて得点を奪ってみせました。
ビジャの高精度のパスはと古橋の得点力はもちろんですが、その前の時間帯で自分達のペースで試合を進められていたことが、この得点に繋がったと言えます。
広島が右サイドからも同じ形でゴールを奪う
(動画→0分36秒)
試合が振り出しに戻ると、サンフレッチェはまたしてもハイプレスを再開。この辺りの切り替えは試合前からすでにプランとして共有されていたように映ります。
ヴィッセルは、またも相手のプレスに動揺してしまい、落ち着きをなくすと勝ち越し点を献上してしまいました。
2点目のシーンは右サイドから。
先制点と同じく、サイドの深い位置に持ち込みマーカーを誘い出すと、最後は中央で合わせるというパターン。
これまでの試合では酒井とフェルマーレンが鉄壁の守りを築いていた同サイドですが、サンフレッチェの攻撃を前にあっさりと壁を破られてしまいました。
(動画→4分36秒)
さらに40分には、シュートブロックに入ったフェルマーレンがハンドを取られ、PKのピンチ。
しかしこの場面では飯倉が見事なシュートストップを披露し、後半へと望みを繋ぎました。
【後半】
1-2で前半を折り返したヴィッセルですが、かなりの劣勢を強いられる展開。
なんとか修正を施し巻き返したを図りたいところですが、後半もゲームはサンフレッチェ有利で進みます。
試合を大きく左右した大崎の一発レッド
(動画→5分15秒)
65分。サンフレッチェは森島が裏のスペースに長いボールを蹴り込むと、ドウグラス・ヴィエイラと大崎が並走する状態となります。
ここで大崎はたまらず手を使って相手を倒してしまい、一発レッド。
この場面はディフェンダーとしてファールで止めるのは仕方ないですが、結果としてこの一発レッドでヴィッセルの敗戦が決まってと言えます。
ヴィエイラのスピードと強さが勝っていたのは事実ですが、大崎としてはその前の段階でポジション取りで優位立っておけば、やや状況は変わったかもしれません。
(動画→5分42秒)
このセットプレーのFKを、森島が見事決めて3-1。ゴール左サイドを射抜く見事なゴールでした。
田中順也が一矢報いるものの…広島がゴールラッシュ
2点差を追う展開となってヴィッセルは、西に代えて藤谷。ビジャに代えて田中順也を相次いで投入します。
この起用に応えたのが田中。77分に、イニエスタのスルーパスに反応すると、左足でネットを揺らしました。
(動画→6分48秒)
しかし、反撃はここまで。
84分に川辺に4点目を決められると、90分にドウグラス。さらに92分には森島と立て続けに失点を喫して6-2。
ヴィッセルは4失点目以降は完全に足が止まってしまい、フィジカルはもちろんメンタル的にも限界は超えていたでしょう。
結局このままゲームは終了。ヴィッセルにとってはダメージの大きい敗戦となってしまいました。
どうして大敗に繋がったのか?3つのポイントから整理
さて、この試合を振り返るポイントは、大きく3つあります。
1.2手先、3手先の策まで講じてきた広島
この日の対戦相手だったサンフレッチェ広島は、ヴィッセルのウィークポイントをしっかりと分析し、的確な対策を講じてきました。
サイドを中心に攻めることで中央のスペースを広げる攻めはもちろんですが、ボールロスト後はすかさずボールホルダーを潰す意識が徹底されていました。
イニエスタやサンペールがファールで倒され、カウンターを発動できないシーンが多く見られたのはそのためです。
現在のヴィッセルの攻撃は後ろから繋げない場合、高速のロングカウンターが唯一の打開策でした。この策まで封じられては、まさに手詰まりの状態。
さらに得点を奪いに行く場面では、最終ラインの後方に大きなスペースが生まれるのも織り込み済みで、そこに狙い大崎の一発レッドを誘いました。
2手目、3手目までしたたかに策を講じてきた点は、策士の城福さんらしい試合でした。
2.ヴィッセルの選手の不安定なパフォーマンス
一方、この日のヴィッセルはどうだったかというと、やや不安定なパフォーマンスが目に付いてしまう印象でした。
例えば、西やイニエスタはいつもの冷静なプレーが見られず、パスミスもいくつか見られました。
また、左サイドの酒井もハイネルに後手を踏んでおり、個の局面でも相手が上回っていたように感じます。
こうした状況と、相手の的確な攻めがさらに焦りを呼び込み、飯倉のミスや大崎の一発レッドなどにも繋がったのでしょう。
もちろん、シーンを切り取れば相変わらず好プレーは多く見られます。ビジャや古橋しかり、イニエスタも見事なアシストを決めました。
飯倉のPKストップも素晴らしいものです。
ですが、こうしたプレーが単発的にしか見られない試合は、ヴィッセルが劣勢を強いられることが多い傾向にあります。
やはり、点と点が繋がり、線になる道のりは、一筋縄ではいかないということでしょう。
3.フィンクの修正力は乏しいのか?
さて、気になる点と言えば、劣勢場面でのフィンク監督の修正力です。
これは試合後にもサポーターの間で議論になりましたが、確かに大きく戦術を変更してゲームの流れを引き寄せる采配はこのところ見られていません。
1つの要因として、現在の3-5-2の形が「ハマり過ぎた」ことは挙げられるでしょう。
現状のスカッドで個人の強みと弱みを補完しつつゲームを組み立てるには、今の形は1つの答えと言えます。
この形で結果も出ていることから、全体の並びは維持しつつ、個人のタレントを変更して刺激を加えることを優先しているのではないでしょうか。
この日なら西に代わって藤谷を投入したのが好例で、違った持ち味を投入することで全体の流れを活性化させるのが、フィンクの采配の特徴と言えます。
ただ、大敗を喫したこの試合は修正を加えるには絶好のタイミングと言えます。コンディションが落ちている選手も見られるだけに、次節では思い切った起用も見られるかもしれません。
とはいえ…
とはいえ…やなりサポーターとしても悔しいゲームとなりましたね。
これまで好調を維持していただけに、まとめて課題を突き付けられたような気分です。ただ、選手達も悔しい気持ちは同じで、SNS等を通じてさまざまなメッセージを発信してくれています。
ドイツ語にはこういう諺があります:「今日は無駄な一日だった」
試合を振り返ってみて、残念な気持ちしかないです。我々がここ数週間見せてきた良いサッカーを今日は出せなかったです。サッカー的にも相手にやられましたが、ハングリー精神や気持ちでも相手に負けた印象です。序盤の15分間は相手のペースでした。そこから15分ほどは我々が上手い形でプレーをし、同点まで追いついたんですが、その後は最後まで完全に広島ペースでした。最終的にはおかしなゴールも許してしまったという印象です。相手にスペースを与えすぎたというのもありますし、特に今日は守備に問題がありました。攻撃でも思っていた形に入れなったです。チームをそこまで責めたいわけではないんですが、今日のパフォーマンスは良くなかったです。次の試合まで約2週間あるので、しっかりと準備をし、良いリアクションを見せられるようにしたいです。
ドイツ語にはこういう諺もあります:「何回か接戦を負けるより、一度大きく負けるほうがマシ」
もちろんそれで今日の結果に納得するわけではないですが、大事なのは前向きに次へ進むことです。(フィンク監督:試合後コメントより)
特に出だしのところで相手は良い形で試合に入れ、逆に自分たちはうまく入れませんでした。また、退場者が出た後に失点をしてしまったことが試合を更に難しくしてしまったかと思います。今日はチームとしてうまくいかなかったことも多かったですし、ミスも多かったです。ミスが全てこの試合に重なってしまったと考えて、次に前向きな姿勢で取り組んでいきたいです。
(イニエスタ:試合後コメントより)
などなど、あらためて気持ちを切り替えることが大切であると述べていますね。
まずは2週間後のFC東京戦。そして、その次の大分トリニータとの天皇杯。1つ1つ課題を潰していきながら、フレッシュな気持ちで大事な試合に挑みたいですね!