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【マッチレビュー】ACL第2節 ヴィッセル神戸vs水原三星

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ACL第2戦。

初戦のJDTに快勝したヴィッセルは、クラブ初のアジアでのアウェイ戦に挑みます。

相手は韓国のカップ戦王者、水原三星です。




両チームのスタメン

この試合ヴィッセルは、4-3-3(4-5-1)に布陣を敷いてきました。

アンカーには初戦を風邪の影響で欠場していた山口が復帰。IHには2試合連続で安井がスタメンに起用されています。

対する水原三星は3-4-3の並び。

昨季Kリーグ得点王のタガートと元サガン鳥栖のキム・ミヌ、ベテランアタッカーのヨム・ギフンが3トップを形成。

最終ラインにはカナダ代表歴もある新加入CBヘンリーが起用されています。

【前半】

アジアでのアウェイ戦は、独特の難しさがあると多くの選手が語っていましたが、この試合も両者の力が拮抗した見応えあるゲームとなりました。

水原がみせたヴィッセルへのリスペクト

立ち上がり、ヴィッセルは今シーズンのテーマでもある前線からのプレッシングを仕掛けます。両WG or CFがスイッチを入れ、それに連動して後方の選手がボールを奪いにいくスタイルです。

シーズン最初の試合だったゼロックス杯では、まだまだ連動性が低く完成度が高くありませんでしたが、公式戦3試合目となるこの試合はよりスムーズな連携が見られていました。

ただ、相手の水原はこの試合に向けてヴィッセルをかなりスカウティングしている印象を受けました。

プレッシングを仕掛けても3-4-3の両WBが後方に下がり5バック気味に守りを固めてきます。一方で最前線にはタガートを残し、ボールを奪うと素早く前線に持ち運びカウンターを狙っていました。

ヴィッセルのハイプレス+ボールポゼッションというスタイルにしっかり対応してきた格好です。

ACL初参戦というヴィッセルですが、水原からすればあのイニエスタが在籍するチーム。事前にリスペクトを持ってきちんと対策を講じてきており、「これは難しいゲームになるな」といった印象の立ち上がりでした。

山口のアンカー起用による影響

さて、この試合ヴィッセルは山口をアンカーで起用しています。

安井をアンカーに置いて、サンペールのようにプレーさせる展開も予想しましたが、守備のリスクを考慮して山口アンカーという判断でしょう。

初戦のJDT戦は5-1とスコアの上では快勝でしたが、中盤の守備はやや不安を感じさせていました。これは本来の3バックではなく4バックのシステムを採用した影響もありますが、やはり山口の不在の「在」を感じました。

このゲームで山口はかなり守備にウェイトを置いてプレーしています。そのおかげもあって、中央エリアの強度は高く、最終ラインに下りてのビルドアップも安定感がありました。

一方で、IHのポジションのように縦横無尽に動き回るプレーは少なかった印象です。これはアンカーというポジションの役割としては致し方ないのですが、チームとして攻撃の面での厚みがどうしても不足していました。試合終盤まで決定機を作れなった要因の1つでしょう。

とはいえ、水原は3バック(ときには5バック)+Wボランチがかなり近い距離でバイタルエリアを埋め、中盤のプレーエリアを限定していました。山口が飛び出すスペースがなく、飛び出せば後方のタガートらをフリーにするリスクもあるなど、この辺りはかなり戦術的な駆け引きがある面白いポイントでした。

可能性を感じさせるイニエスタのパスとドウグラスの強さ

スペースがない中で少ないチャンスを生み出したのは、やはりイニエスタです。

中央が狭いと分かれば、センターサークル付近まで下りて自身にマークを引きつけます。マーカーが喰い付けばスペースが生まれ、喰い付かなればロングレンジのパスを両サイドの高いエリアに蹴り込んでいました。この辺りの老獪さはさすがで、両SBの酒井や西がボール受けていくつか決定機を作っていました。

また、この試合最前線のドウグラスも高さと強さを何度も見せてくれています。やはり後ろに引いて守られた状況では、パスワークだけでの打開は難しさがあります。

とくに水原三星のように個人のフィジカルが強い相手には尚更です。今後連携がさらに構築されてくれば、よりオートマチックにドウグラスに当ててからの展開も増えてくるでしょう。

【後半】

0-0で前半を折り返した両チームでしたが、ここでヴィッセルにアクシデントが発生します。

フェルマーレンが負傷による交代し、急遽CBに渡部博文が入りました。

ベテランらしい落ち着きで流れを引き寄せた渡部

前半負傷したような仕草は見せなかったフェルマーレンだっただけに、この交代は驚きでした。

CBは他のポジションと違い、試合途中からのプレーに難しさがあります。渡部も韓国でのアウェイ戦に呑まれるのではと心配しましたが、まったくの杞憂に終わりました。

ファーストタッチから集中してプレーしていたこのベテランCBは、持ち前の対人守備でしっかりピンチの芽を摘むと、自らドリブルで持ち上がりビルドアップにも参加。

渡部はもともとビルドアップ面に課題を抱えていましたが、昨季終盤からは着実に成長の跡を見せており、この試合も見事なプレーを披露していました。

後半立ち上がりからプレスの強度を強めてきた水原にも動じることなく、チームとして落ち着いてプレーできたのは、渡部がスムーズにゲームに入ってくれたから。

ヴィッセルはポゼッション率を高めるながら、じわじわと水原ゴールに迫っていきます。

足は止まるもヘンリーの高い壁が立ちはだかる

水原はこの試合が今シーズンの公式戦初戦。

後半中盤になってくると、ヴィッセルのパスワークに対応していた影響もあって、運動量が目に見えて落ちてきました。

ヴィッセルはゴールを奪うべく攻撃を仕掛けますが、ここに立ちはだかったのが相手CBのヘンリーです。

カナダ代表でのプレー経験もあるヘンリーは、188cmの高さと鋭い反応で決定機を何度も阻止。とくにドウグラスとは何度となくバトルを繰り広げるなど、抜群の存在感をみせていました。

足が止まり相手がさらに深く引きこもる展開に、なかなかゴールラインを超えることができません。

焦らずスタイルを貫いたことで生まれたゴール

刻々と時間が進む中、ヴィッセルはしっかりボールを繋いでゴールに迫るスタイルを貫き続けます。

昨季終盤からの連勝や2つのタイトルを獲得したことで生まれた自信が、チーム全体に浸透しているように感じました。

歓喜の瞬間はロスタイム突入間近の90分に訪れます。

イニエスタが左サイドでボールをキープすると、LSBの酒井の動き出しに合わせて浮き球のパスを出します

酒井はフリーの状態でボールをもらい中央にクロス。これに古橋が滑り込みながらダイレクトボレーで合わせて先制点を奪いました。

古橋の水原戦のゴール

この場面、酒井の動き出しに合わせて、中央の3人も素早くゴール前に走り込んでいます。

特筆すべきは、それぞれがニア・中央・ファーに走り込み、相手マーカーを分散させていること。

チームとして局面を打開して得点を奪う意識が強く感じられるシーンで、非常にヴィッセルらしさが出たゴールでした。

90分というギリギリの時間帯に複数人が連動して崩してゴールを奪えたことは、チームとしての地力がついてきた証ではないでしょうか。

結局この1点を守りきり、試合終了。アウェイで貴重な勝ち点3を積み上げる素晴らしいゲームとなりました。

互いが良質なプレーを見せた好ゲーム

戦前の予想では、フィジカルに利したプレーを得意とする韓国クラブのラフプレーが警戒されていました。

しかしこの日の水原は局面での激しさこそあるものの、非常にクリーンなサッカーを志向結果としてヴィッセルも得意とするパスワークを中心とした戦いを採用でき、良質なプレーが多い好ゲームになりました。

初戦のJDTよりは明らかにプレー精度が高い手強い相手に、こうしてアウェイ戦で勝利できた点は非常に価値があります。

ちなみに、個人的にはヨム・ギフンのボールタッチがお気に入り。半身でキープして相手マーカーからボールを遠ざけるプレーはさすがです(ヴィッセルでもプレーできそう…と妄想してしまいました)。

フェルマーレンの状態は気になるものの…

さて、第2戦を終えて、いよいよ次はリーグ戦が開幕です。

気になるのはこの日前半で退いたフェルマーレンの状態。フィンクは会見で「小さな問題」と表現しましたが、開幕戦の欠場も予想されます。

ただ、この日途中出場した渡部の活躍もあり、大きな不安要素とはならないでしょう。

一方で、海外でのアウェイ戦を経て戦う中3日での試合で、どの程度プレーできるのかはしっかり注視しておきたいところ。前半戦はハードな日程が続くだけに、コンディションを重視した起用で乗り切っていきたいところです。




 

ABOUT ME
フットボールベア―
1987年生まれのクマみたいに大きい人。 日韓W杯に魅了されサッカーにどっぷりとハマる。学生時代を神戸で過ごしたことから、ヴィッセル神戸サポに。 2016年からはライターとして活動し、おもにEC系メディアを取り扱う。かねてからサッカー情報を発信したいと考えており、このサイトを立ち上げる。