今回のマッチレビューは、Jリーグ第7節のヴィッセル神戸vsサンフレッチェ広島のゲームをお届けします。
ここまでリーグ戦で、5試合連続無失点を続けるサンフレッチェ。一方のヴィッセルは、前節の松本山雅戦に敗れただけに連敗は避けたいところです。
堅守のサンフレッチェに、ヴィッセル攻撃陣がどう挑むのかが注目された試合は、ヴィッセルのホーム、ノエビアスタジアムで開催されました。
両チームのスタメン

この日のヴィッセルは、前節に負傷交代したビジャが欠場。代わりに公式戦2連続得点中のウェリントンが先発起用されました。同じく負傷欠場が心配されたポドルスキはスタメンに名を連ねます。フォーメーションは山口とサンペールをダブルボランチで並べる、4-2-1-3のスタートです。
アウェイのサンフレッチェは、シャドーの柴崎と、ワントップのドウグラス・ヴィエイラが怪我のため欠場。代わってシャドーには渡、ワントップにはパトリックが先発で起用されました。フォーメーションは3-4-2-1です。
【前半】イニエスタのセットプレーが冴えわたる
戦前の予想では、サンフレッチェが 積極的にプレスを仕掛けるとみられていましたが、ゲームは比較的ゆったりとしたリズムでスタートしました。
なぜサンフレッチェはプレスは機能しなかったのか?
前半、試合開始直後に見られたサンフレッチェのプレスは、ゲームを進むに連れて影を潜めていきました。どうしてサンフレッチェのプレスは機能しなかっのでしょうか?理由は大きく3つあります。
- 1)相手のダブルボランチでツーシャドーをカバーされたから
- 2)ポドルスキがフリーマンとしてポジションを移動していたから
- 3)ウェリントンがハイボールをことごとく制していたから

1)ヴィッセルとサンフレッチェのポジションを重ねると、ダブルボランチを組んだことでサンフレッチェのツーシャドーをきっちりカバーできることが分かります。サンペールのアンカー1人ではプレスの餌食となりますが、山口と2人ならプレスからの逃げ場(パスコース)が多くなります。これでは、連動してプレスを「はめる」ことができません。
2)もう一点サンフレッチェがプレスを仕掛けなかった理由として、ポドルスキのポジショニングが挙げられます。この試合のポドルスキはいつもに増して、フリーマンとしてピッチの至るところにポジションを変えていました。この日のポドルスキの運動量は少なく試合から消える場面も見られましたが、彼の「自由気ままな」ポジショニングにサンフレッチェが困惑していたのは確かです。
3)また、プレスを仕掛けヴィッセルにロングボールを蹴らせても、ウェリントンがことごとくハイボールの競り合いを制していました。これにより、セカンドボールを拾うことができなかったことも理由の1つでしょう。
ヴィッセルは前線からのハイプレスに対して弱さを見せる傾向にありますが、序盤戦ではサンフレッチェのプレスをうまく避けてプレーしていた印象です。
イニエスタのFKからウェリントンが先制点を奪う
なかなかボールの奪いどころを見つけられないサンフレッチェに対して、攻勢を仕掛けるヴィッセル。先制点は前半の14分に生まれました。
ゴールに向かって左寄りの位置でフリーキックを得ると、キッカーのイニエスタがニアサイドに速いボールを蹴り込みます。頭で合わせたのはウェリントン。サンペールが相手マーカーをブロックする間にフリーで飛び出すと、きっちりとヘディングでゴールを奪いました。
得点シーンを振り返ると、高さのあるダンクレーが外に膨らむようにしてマーカーの密集を広げています。解説の岩政さんも指摘していましたが、きっちりデザインされた(プラン通りの)セットプレーで奪った得点と言えるでしょう。
不安定なプレーが連続したヴィッセル守備陣
堅守のサンフレッチェから先制点を奪ったヴィッセルですが、ミスからあっさりと同点ゴールを奪われてしまいます。
前半23分、右サイドを攻め上がる西からボールを奪ったサンフレッチェは、野津田から柏へスルーパス。これに一度は追いついたダンクレーでしたが、キーパーへのバックパスをミスキックしてしまいます。
すかさず反応した柏がボールを奪うと、中に走り込んできたパトリックにマイナスのボールを折り返し同点ゴール。一瞬の隙を見逃さず見事にゴールを決めました。
実はこの失点シーン、西にボールが繋がる前の段階で左センターバックの大崎もボールコントロールをミスしています。その流れでアバウトに蹴り出したボールが失点シーンに繋がっていました。
サンフレッチェは得点を奪うべく、20分あたりから再度プレスを強めていましたが、これに両センターバックは虚を突かれたように見受けられます。せっかくここまで上手く相手のプレスを掻い潜っていただけに、ミスが連続したイージーな失点でした。
またもイニエスタのセットプレーから得点
同点に追いつかれたヴィッセルですが、またもセットプレーから勝ち越し点を奪います。
前半28分、ウェリントンがポストプレイでファールを受けると、古橋がゴールに向かって走りだします。イニエスタがすかさずクイックリスタートでスルーパスを送ると、古橋が冷静のゴール左へ流し込み得点を奪いました。
サンフレッチェ守備陣が背中を向けている隙を突いた古橋と、それに反応したイニエスタ。この2人のコンビは、現在のヴィッセルの中で一番連携が深まっているように感じます。
一方のサンフレッチェは明らかに集中を欠いたシーンでした。前半のサンフレッチェはプレーにムラがあり、安定感という意味では「らしくない」ゲームだったと言えます。
結局前半は2-1のまま、ヴィッセルのリードで折り返します。
【後半】守備の課題を露呈した神戸と、広島の意地
ここまでのリーグ戦で安定した戦いを見せていたサンフレッチェでしたが、前半戦は低調な出来。しかし後半の開始からは一気にアクセルを踏み込み、ヴィッセルに襲い掛かります。
ヴィッセルのハーフスペースを突いたサンフレッチェ
後半サンフレッチェはサイドプレスの強度を高めるのと合わせて、攻撃の形も変えてきました。
狙いはヴィッセル神戸のハーフスペース。まず、ツーシャドーの渡と野津田が相手センターバックとサイドバックのスペースを突きます。センターバックが大きく開き、サイドバックを押し上げる形を取るヴィッセルは、このスペースの守りに弱点を持っています。

もう1つは、後半59分にパトリックに代わって皆川を起用したこと。皆川はパトリックと同じ高さを武器とするタイプですが、投入後は前後の動きで相手センターバックを揺さぶります。これにより、センターバックは中央のエリアも意識しなければならず、ハーフスペースがあらに手薄になっていきました。
ズルズルと下がったディフェンスラインをこじ開けて同点
こうなると、ヴィッセルのディフェンスラインはズルズルと後ろに下がってしまいます。中盤は間延びし、空いたスペースにサンフレッチェの攻撃陣が次々と飛び出します。
同点ゴールは65分。サイドで起点を作る、サロモンソンがボックス内の川辺にパス。川辺が粘り、浮き球を送ると渡りと野津田が競り合い、最後は柏が頭でそらしてゴール。ヴィッセルのハーフスペースを突いた縦パスから粘った末のゴールでした。
先発起用の渡が立て続けに2ゴールを奪い勝負あり
渡りが見事のボレーで逆転ゴールを奪う(ヴィッセル神戸vsサンフレッチェ広島)
サンフレッチェはこのまま手を緩めず、70分に逆転ゴールを奪います。
バイタルエリアに松本がパスを入れると、川辺がそのままドリブルでヴィッセルの左サイドへ侵入します。この場面もぽっかりと空いたハーフスペースを使われています。川辺の左足のクロスは精度を欠きますが、逆サイドのサロモンソンがボールを拾うと、浮き球のクロス。中でフリーになっていた渡が倒れ込みながらダイレクトボレーで合わせるビューティフルゴールを奪いました。
そのわずか3分後の73分、カウンターの展開から柏がドリブルで持ち込み、左サイドを駆け上がる野津田へパス。野津田は左足でクロスを送ると、またしても渡が飛び込むように右足でボレーを合わせ追加点。渡はこの日リーグ戦初先発で、見事2ゴールと結果を残しました。
結局このまま4-2でサンフレッチェ広島が勝利。前半は安定感を欠いたプレーが散見されましたが、後半は運動量を生かした見事な戦い方で逆転勝利。ヴィッセルの弱点を突いた城福監督の采配もさすがでした。サンフレッチェの意地を見せられたようなゲームでした。
守備組織の早急な改善が必要なヴィッセル
敗れたヴィッセル神戸は、脆弱な守備を改めて露呈する試合となってしまいました。
ハーフスペースの守備もそうですが、山口が広大なスペースを1人でカバーすることが多く、数的不利を数多く作られていました。また、サンペールは攻撃の場面でこそパスワークで魅せるものの、現状では守備の面でまったく貢献できていません。
しかし、山口をアンカーに据えて(あるいは三原)サンペールの代わりに三田や三原を起用すると、パスワークに影響が出るでしょう。サンペール起用の意図はここにある訳で、これでは豪華な攻撃陣を生かせなくなってしまいます。
パスワークを追う片道切符のヴィッセル神戸
こうなってくると、話はヴィッセルの目指すコンセプトということになります。つまりは守備の脆弱性に目をつぶってでも、あくまでもパスワークで崩していくのか?ということ。
ただ、攻守に運動量の多いJリーグのスタイルでは、一筋縄ではいかないでしょう。確かにヴィッセルのパスワークは昨年から精度を高めていますが、選手の入れ替えが激しく連携面が構築されていません。その連携を補うための運動量も、ポドルスキ、ビジャ、サンペールといった選手を起用するとさらに厳しくなってきます。
しかし、ここでパスワークを投げ出してしまえば、またゼロからチームを作り直さなければいけません。選手補強もパスワーク主体で進めており、後戻りはできないでしょう。現在のヴィッセルはまさに片道切符の状態と言えます。
個の精度を高めつつ、連携の構築を急ぐ
パスワークを追求することしか道がないなら、迷わず進む以外に選択肢はありません。いまは個人が精度を高め、連携面の構築を急ぐ他ないでしょう。リージョが先発メンバーを固定しているのも連携の構築を促したい意図が感じれます。
また、すぐに手を打ちたいのが、選手たちのハードワーク。これは今のヴィッセルには一番足りないポイントでしょう。
川崎フロンターレや名古屋グランパスに風間監督が就任した際は、守備面での脆弱性をたびたび批判されていました。しかしクラブはブレることなく、風間さんのコンセプトを貫くことで結果に繋げました。
長くヴィッセルサポとしてクラブを応援していると分かりますが、ヴィッセルはまだ「勝グセ」を持ち合わせていません。そのため、目の前の結果に一喜一憂してしまいます。そこをいかに堪えることができるか。クラブや選手はもちろん、サポーターの忍耐も試されているように感じます。