ユースから在籍したマリノスを離れ、2019年夏にヴィッセル神戸に加入したGK飯倉大樹。
加入直後からフィールドプレイヤーさながらの守備範囲で、守備はもちろん攻撃の起点としても抜群の存在感を見せています。
今回はチームのキーマンともなりつつある飯倉のプレースタイルと、ヴィッセルにもたらしてくれた戦術的なメリットについて考察していきたいと思います。
【プレースタイル】30代を迎え円熟味が増した現代型のGK
飯倉大樹(いいくらひろき)は、守備範囲の広さと高い足下の技術がプレースタイルの特徴と言える現代型のGKです。
◆1986年6月1日生まれ(34歳)181Cm・75キロ 右利き◆
優秀なGKを続々と排出するマリノスでも早くから将来を嘱望されると、2009年から出場機会を増やし正守護神としてプレー。
若手時代は熱い性格が空回する姿も見られましたが、30代を迎えプレーに円熟味が増すとシュートストップやキャッチングの精度が向上。GKとして高いクオリティーのプレーを披露します。
加えて、持ち味の足下の技術を生かしたビルドアップも冴えわたり、ハーフウェイラインを超えてプレーするなど最後尾から攻撃の起点としても貢献します。
とくに2018年にマリノスの監督に就任したポステコグルー監督の下では、そのプレースタイルが戦術の要として機能するなど、現代型GKとして高い評価を得るプレイヤーの1人です。
※データはすべて2019年9月4日現在のもの
ヴィッセルの守備再建のキーマンとして移籍
2019年の夏には、ヴィッセル神戸へ完全移籍で加入。
ユース年代から長年プレーしてきた横浜の地を離れ、初めて違うクラブでプレーすることを選択します。
ヴィッセルはシーズン開幕から正GKが定まらない状況が続き、後方からビルドアップできる正守護神の獲得が急務でした。
飯倉もマリノスでのポジションを新加入の朴一圭(パク・イルギュ)に譲るなど、出場機会を求めていることもあり、双方にとってメリットの大きい移籍だったと言えます。
加入直後からスタメンで起用されると、ハイラインを敷くチームの戦術に難なく対応。
ビルドアップの場面では「11人目のフィールドプレイヤー」としてプレーするなど、守備組織の安定に大きく貢献しています。
飯倉がヴィッセルにもたらした3つのメリット
さて、飯倉の加入によりヴィッセルは戦術的に大きなメリットを得ることができました。
そのポイントを具体的に3つ取り上げてみましょう。
1.最後尾からのビルドアップ精度が向上する
1つ目は、最後尾からのビルドアップの精度が向上したということ。
パスサッカーを要とするヴィッセルにとって、最終ラインでのボール回しは重要なポイントとなります。
しかしこれまでは相手チームからハイプレスを仕掛けられると、ミスからボールを失ってしまい、失点に直結するシーンも少なくありませんでした。
飯倉の加入後は、この最後尾でのミスが激減。
ここまでの試合では、24節の鳥栖戦で1度危ないシーンが見られただけで、格段に安定感が増しました。
最終ラインやボランチの位置でプレッシャーを掛けられても、最後尾の飯倉というパスの選択肢が増えたことで、ビルドアップの精度は大きく向上しました。
ちなみに、こちらの「平畠会議」の動画では、飯倉加入によるビルドアップでの数的優位を森岡さんが分かりやすく解説してくれています!
2.ハイラインの後方エリアをカバーできる
2つ目は、ハイラインの後方にできる広大なエリアをカバーできるということ。
データを見てみましょう。
こちらはヴィッセル加入後に飯倉が出場したリーグ戦のデータです。注目したいのが、走行距離の部分。
飯倉はGKとしてはかなり広域なエリアをカバーしています。
毎試合ペナルティーボックスの外でパス回しに参加するのは当たり前で、ときにはハーフウェイライン近くでもプレーしています。必然的に走行距離も増加する傾向にあり、対戦相手と比較するとその違いがはっきりと分かるでしょう。
後方のエリアをカバーしてくれるということは、それだけ最終ラインを高く設定できるので、より攻撃的にプレーすることができます。
全体をコンパクトに保つことで、パス回しとボールロスト後の即時奪還にもスムーズに移行できる、戦術的なメリットは大きいと言えるでしょう。
3.外国籍枠に左右されない
この数シーズンヴィッセルの正守護神は、韓国代表のGKキム・スンギュが担ってきました。
シュートストップや果敢な飛び出しなど、多くのピンチを防いでくれたキム・スンギュですが、大きなネックとなっていたのが外国籍枠の問題。
アジア枠が採用されていた昨シーズンまではそれほど問題視されませんでしたが、今シーズン複数の外国籍選手が加入すると、スタメンから名前が漏れることも少なくありませんでした。
これはフロントのマネジメントの問題もありますが、正GKがコロコロ変わるようでは、守備の安定は見込めないでしょう。
飯倉の獲得はこうした外国籍枠に左右されず、高いレベルのプレーを保証してくれる人材を確保できたという意味で、チームに多大なメリットをもたらしたと言えます。
まとめ
今回は、ヴィッセル神戸の新守護神として加入した飯倉大樹のプレースタイルと、ヴィッセルにもたらした3つのメリットを解説しました。
飯倉の持ち味は、広大なエリアをカバーできる守備範囲の広さと、ボールコントロールに長けた足下の技術にあります。
GKとしてシュートストップやキャッチング力も長けており、あらゆるタスクをハイレベルでこなせる現代型のGKの1人です。
ヴィッセルでは、1.最後尾からのビルドアップ精度が向上する、2.ハイラインの後方エリアをカバーできる、3.外国籍枠に左右されない、という戦術的なメリットをもたらしてくれており、すでにチームにとって欠かせないプレイヤーの1人と呼べるでしょう。