前節終了間際の同点ゴールで引き分けに終わったヴィッセル神戸。
それでもフィンク就任後ポジティブな状況は続いており、チームには上昇ムードが漂っています。
この勢いを確かなものにするためには、勝ち点3が欲しいところ。この日は風間監督率いる名古屋グランパスが相手です。
両チームのスタメン
この日のヴィッセルは、婦人の出産のため帰国していたイニエスタがスタメンに復帰。両SHには左に郷家、右に古橋が起用されメンバーを少し入れ換えてきました。
対するグランパスは、CBの丸山が負傷欠場となり、代わりにボランチが本職のジョアン・シュミットを起用。エドゥアルド・ネットが初先発となり、ヴィッセル同様外国籍枠をフルに活用していきました。
【前半】密度の濃いスペースの中での展開に
前半は両チームがコンパクトな陣形を維持することで、密度が濃いスペースの中で互いにプレーする展開となりました。
グランパスが仕掛けたビルドアップ対策
この日スタメンに復帰したイニエスタは、FC東京戦と違いやや前よりのポジション取りでプレーしていました。
ダブルボランチというよりも、フリーマンとしてプレー。これはコンディションが万全ではないため、より彼のスキルが生きるゴール前でプレーさせたい狙いが見て取れます。
ヴィッセルはイニエスタを経由するために後方からビルアップを仕掛けますが、これに対してグランパスは4トップのような形で対策を講じてきます。
相手キーパーがボールを持っている場面では、両SHが高い位置に留まることでSBをけん制。中央もCFの2人が残っているので、キム・スンギュは安易にパスを出すことができず、長いボールを蹴らされていました。
狙いとしては、まずヴィッセルに楽な状態でボールを持たせないこと、そしてキム・スンギュのる足下スキルに不安がある点も考慮されていたのかもしれません。いずれにしても、ヴィッセルは早い時間帯から長いボールを蹴る展開が多くなり、ショートパスによる攻め手は極端に少ない印象でした。
グランパスの狙いを壊すイニエスタとビジャのコンビ
ロングボールを蹴らせることに成功したグランパスですが、それを上回ったのがイニエスタとビジャのコンビでした。
イニエスタは少ないチャンスでもボールを受けると、すぐさまビジャの位置を確認。ライン際で駆け引きする彼に向けて糸を引くようなパスを供給します。
グランパスは一貫してハイラインを敷いているので、ディフェンスラインの後ろには広大なスペースが生まれます。ビジャは何度となく背後を突く動きを披露し、ゲームの流れを相手に渡しません。これに呼応するように郷家やウェリントンも連動し、厚みのある攻撃を展開しました。
すると前半27分。初瀬の持ち上がりからビジャにスルーパスが出ると、シュミットとの1対1の場面に。ビジャはゴールに向かいながら上半身だけの動きで相手の体勢を崩すと、一気に縦に加速してシュート。鮮やかな個人技で先制点を奪いました。
シュミットはCBが本職ではないとは言え、ビジャの巧みなドリブルは世界レベルの香りを感じさせるには十分。この数試合、日に日にコンディションを上げてきているビジャですが、37歳とは思えないプレーぶりは本当に頼もしい限りです。
トリプルボランチで守備のリスクを消す
先制点を奪うと、ヴィッセルはトリプルボランチの陣形が多くなりました。
SHが内側に絞るように位置し、中盤に厚みを加える戦術です。
これはフィンク就任後に特徴的な戦術の1つですが、この日はイニエスタを前気味でプレーさせる分、両サイドが同時に絞るようにして守備に厚みを加えていました。
試合展開により陣形を柔軟に変更するのは現代サッカーの定石ですが、守備面でのポジションチェンジはこれまでの政権ではあまり見られない動きでした。やはりディフェンスがヴィッセルの最重要課題であることは明らかなだけに、はっきりと決まり事を提示することで安定を図っているのでしょう。
グランパスは中央を閉じられても、あえて狭いスペースを通すことで決定機を狙ってきました。これは風間サッカーの特徴ですが、ミドルレンジからのシュートやジョーや長谷川をポスト役にしたワンツーなど、グランパスの攻撃はバリエーションが多彩な点はさすがです。
【後半】両チームの攻撃が爆発。派手な打ち合いに
1-0で前半を折り返した両チーム。後半も名古屋は攻撃的なパスサッカーを披露し、ヴィッセルはロングボール主体のカウンターで応戦する展開となります。
得点に匂いがどこかしこに漂うゲームは、両チームの攻撃が冴えわたる派手な打ち合いとなりました。
ゲートを通すことを徹底するグランパス
グランパスは狭いスペースをこれでもかと突いてきます。
選手と選手の間の「ゲート」を通すことを徹底して狙い、危険な局面に縦パスを通すことでチャンスを伺います。
すると58分。
ボランチのネットがゴール正面に鋭いグラウンダーのパスを出すと、長谷川がこれをスルー。ジョーがボールを収め、丁寧にサイドに出したボールはフリーに和泉へ。
和泉はゴール右隅を狙いシュートを放ち、見事同点ゴールを奪いました。流れるような展開から生まれたこのゴールですが、グランパスはボックス内に5人もの選手が進入していました。ヴィッセルも枚数を割いて守りを固めていましたが、危険なポジションにパスを送り、複数が連動して動くグランパスの高い攻撃精度が上回ったシーンと言えるでしょう。
イニエスタが2戦連続のビューティフルゴール
同点に追い付かれたヴィッセルですが、ここでもう一度モチベーションを高め反撃に打って出ます。
62分。左サイドの郷家から、初瀬にボールが繋がり、ゴール前に右足でクロス。
一度はキーパーのパンチングに阻まれますが、セカンドボールをイニエスタが冷静にコントロールすると、右足でゴール左隅にシュート。
ボールは柔らかい軌道を描き、見事ゴールネットを揺らしました。自身にとってはFC東京戦から2戦連続となるゴール。お子さんの誕生をおしゃぶりポーズとゆりかごダンスで祝福します。
セカンドボールに対しては米本がマークに付いていますが、イニエスタはこの動きをしっかり読んでタイミングを外しシュートコースを作っていました。
ボールもランゲラックの指先をかすめるビューティフルゴール。ビジャに負けじとワールドクラスの実力を披露してくれました。
ディフェンスラインの集中力が課題
勝ち越し点を奪ったヴィッセルでしたが、思わぬ形でまたも同点に追い付かれます。
グランパスがボックス内に攻め込み、シュートを放つと、ボールはヴィッセルのブロック当たりふわりと宙に浮きます。
落下地点には初瀬が待ち構えていましたが、初瀬はヘディングでクリアせず、ボールをスルーしキーパーに任せてしまいました。後方にはグランパスのSB宮原がおり、すかさずシュート。キム・スンギュも咄嗟のプレーに反応できず、もったいない形で失点を喫してしまいました。キーパーと初瀬の連携ミスですが、こうしたミスがヴィッセルは目立ちます。
ディフェンスが集中力を欠いたエアスポットのような時間帯が1試合に何度か見られてしまい、これは明らかな改善点の1つでしょう。
この失点からゲームは壮絶は打ち合いへのなだれ込みます。
69分。イニエスタがターンしながらマーカーを外すと、左足でスルーパス。反応した郷家がボックス内で倒されPKを獲得しました。
これをイニエスタが落ち着いて決めて3-2。
しかし77分。
サイドでの崩しからのクロスを、中央のジョーがヘディングをで折り返して、中谷が合わせます。
ボールはバーを叩きましたが、弾かれたボールはゴールラインを割っており3-3の同点。ヴィッセルはマークがしっかり付ききれておらず、フリーの選手を作っていました。疲労の影響もあってか、あっさりのゴールを決められてしまった印象で、やはり守備面の不安を覗かせてしまいました。
三度目の勝ち越しゴールと小川の試合を決める一撃
こうなってくると試合はどちらに転ぶか分かりません。
しかしここでミスが出たのは、グランパスでした。80分、米本からボールを受けたシュミットにウェリントンがしつこくプレスを掛けると、パスミスを誘発。
これを拾ったビジャがフリーでゴール前に持ち込むと、キーパーのランゲラックが堪らず足を出してしまいPKの判定。今度はビジャがこれを決めて、4-3となりました。
さらに86分。右SBの西から前線にパスが出ると、小川がワントラップで一気に加速。
ゴールに向かって一直線にコースを取ると、最後はキーパーの視界上隅を射抜くゴールで試合を決定づけました。最初のトラップでマーカーを振り切ったスピードもさすがでしたが、最後は成長を伺わせる精度の高いキックでネットを揺らしてくれました。これには小川に特別な思い入れがヴィッセルサポーター達も大興奮!
一方マークの場面で足下を滑らしてしまったシュミットは、この日3失点に絡んでしまう「厄日」。攻撃的なオプションとして起用されていましたが、派手な打ち合いの流れと慣れないCBのポジションに本来のパフォーマンスを披露できませんでした。
結局試合は5-3のスコアで試合終了。合計8点ものゴールが生まれたゲームは、ヴィッセル神戸が勝利を収めました。
公式戦5戦無敗も守備の改善は急務
ヴィッセルはこの日の勝利で、直近の公式戦5試合で無敗。
フィンク監督の就任後は2勝1分けと、監督交代後の上昇気流を掴み始めたかに映ります。しかしこの日も3失点を喫しするなど、守備面の改善は急務。とくに突然集中力を欠くようなシーンは、すぐに修正したポイントです。
スリーCBの逃げ切り戦略は「あり」
この日の終盤、フィンクは大崎を投入してスリーCBで逃げ切りを図りました。
これはFC東京戦でも見られた戦術で、個人的には有効なオプションと感じています。ハイプレスを志向するフィンクの戦術は、試合終盤に運動力が低下する弱点を持っています。
そのため、リードしている展開では、早めに3枚の守備で守るという姿勢をはっきりとさせた方が、選手達の対応にも迷いが出ないでしょう。とくにSBの裏はヴィッセルのウィークポイントとして相手にも知られているだけに、3バックないしは5バックにすることで、守りを固めるのは「あり」です。
気になるポゼッション率の低下
気になるのは、ポゼッション率が著しく下がっているということ。
この日はボールを保持するグランパスが相手でしたが、ポゼッション率は32%に留まりました。トリニータ戦とFC東京戦が42%だったことを考えれば、フィンクは戦術としてボールに固執しないという姿勢は伺えます。
確かに、連敗中のヴィッセルは「ポゼッションのためのポゼッション」になっていており、手段と目的が曖昧になっていたのは事実です。
しかし、これだけ低い値となると、試合終盤はガス欠状態となり、失点のリスクは高まります。今後夏場に向けてコンディションが厳しくなることを考えれば、ボールを握る「緩急」を持つことも選択肢に含めるべきでしょう。ただ、この辺りはバランスの問題であり、フィンクは相手の弱点を突く戦略家であることを考えれば、試合によって表情は変わってくるかもしれません。
この辺りはこれからの試合でも注意深く観察していくポイント言えるでしょう。