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【マッチレビュー】Jリーグ第8節 ヴィッセル神戸vs北海道コンサドーレ札幌

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前節のガンバ戦では、手痛い敗戦を喫してしまったヴィッセル。

しっかりチームを立て直し上昇気流に乗るためにも、この日のコンサドーレ戦は重要な一戦となります。




両チームのスタメン

ヴィッセル コンサドーレ スタメン

この試合のスタメンは、現在のヴィッセルのフルメンバーと呼べる面々。

アンカーにサンペールが戻り、右CBにもダンクレーが復帰。3-5-2でコンサドーレに挑みます。

一方のコンサドーレは、3-4-3の並び。スリートップの中央には荒野を起用するゼロトップを採用し、ヴィッセルのビルドアップ対策を打ってきました。

【前半】

立ち上がりから積極的に動いたのはコンサドーレ。

前線の3人から激しいプレスを仕掛け、ヴィッセルに自由なボール運びをさせません。起点となるアンカーのサンペールにはマーカーが入れ替わりながら対応し、ボールの出所を閉めにかかります。とくにゼロトップに入った荒野は前後に自由自在な動きをみせ、戦術的に重要な役割を担っていました。

コンサドーレがマンマークでプレッシングを仕掛けることは、戦前から予想されていました。しかしヴィッセルが予想以上に手こずったのは、古橋の負傷交代の影響が多少なりともあったでしょう。前半11分、古橋が左足の太ももを痛めて小川と交代。

抜群の突破力とスピードを武器とする古橋の存在は、コンサドーレDFへの抑止力の役割も担っています。しかしこの抑止力が早々に交代したことで、コンサドーレはよりアグレッシブな守備を実行することが可能に。ヴィッセルもプランの変更を強いられたことで、やや混乱した時間帯が続きました。

コンサドーレペースで試合が進む中、先制点が生まれます。

29分、左サイドでボールを受けた高嶺が早いタイミングでアーリークロスを蹴り込みます。このボールをクリアしようとしたフェルマーレンですが、頭での処理がややルーズになりGKとの間に浮いてしまうと、荒野が滑り込みながら合わせてゴール。一瞬の隙を見逃さず、しっかりと得点を決めてみせました。

フェルマーレンはボールをクリアするのか、飯倉に返すのかやや判断を迷ったのかもしれません。ただ、処理を迷う位置にボールを入れた高嶺のキックと、ルーズボールに反応した荒野の予測は見事でした。

相手ペースで時間帯で奪われた失点。ボール運びも上手くいかない中、やや重苦しい空気が漂ったヴィッセルでしたが、そのわずか2分後に同点ゴールが生まれます。

31分。左CBのフェルマーレンが最前線にロングボールを蹴り込むと、ドウグラスが高さのあるボールを巧みに処理して前を向きます。視界右側を並走する山口を見つけると、左足でパス。

山口はボールを蹴りやすいようにタイミングを計り、右足で丁寧にシュート。グラウンダーのボールでゴール左隅をしっかり射抜き、同点ゴールを奪いました。

試合後の会見でフィンクが語ったように、このゲームではドウグラスの高さを活かす戦術が採用されていました。ただここまでの時間帯は相手ペースで進んでいたこともあり、高さが目立つシーンは少なかったのですが、失点直後のタイミングでしっかり結果に結びつかせました。

特徴的なのが、最前線でドウグラスを待たせるではなく、やや下りてきた位置でハイボールを競わせていた点。これは昨シーズンフィンク就任直後に、ウェリントンを起用している時期も見られた作戦です。高さのあるCBとの勝負を避ける狙いはもちろんですが、先制点で山口が見せた二列目の選手の飛び出しを促すこともできます。また、ドウグラスがボールをキープして前を向けば、単独でドリブル突破に移行できるなど、単純な「放り込み」ではなく、あくまでも流動的な攻撃を作り出す意図が窺えました。

ドウグラスが活きてくれば、マークを引きつけることができるため他の選手達にスペースが生まれます。

45分。ボランチの位置まで下りていたイニエスタから、右サイドを飛び出した西に長いボールが通ります。西はワントラップでマーカーを外しながらボックス内に侵入すると、中央に走り込んでいたドウグラスへクロス。ドウグラスは倒れ込みながら左足のつま先をわずかに当てるようにしてボールを触り、しっかりゴールを決めて逆転に成功しました。

このシーンは見所が凝縮された得点です。

まず中央のポジションからあえてアンカー位置まで下りてマーカーを引き付けていたイニエスタ。サンペールと縦関係を入れ替えるなどして、守備にギャップを作り出しコンサドーレのマーカーを混乱させていました。フリーの状況を自ら作り出し、右サイドの西へ高精度のパスを供給してみせました。

西は一度後ろに下がるような動きを見せて、マークする菅を振り切った動きが秀逸。さらに絶妙なトラップ。マーカーを置き去りにしつつ、スピードを落とさないようボールをコントロールして決定機を演出しました。

仕上げのドウグラスは、ストライカーらしい泥臭いゴール。相手と競り合いながらも、しっかり枠内に収めるあたりはさすがです。

前半はこのまま2-1で終了。同点後はヴィッセルペースで進み、終了間際に逆転する理想的な展開で折り返しました。

【後半】

前半を良い形で終われたヴィッセルですが、相手は百戦錬磨のミシャ率いるコンサドーレ。このままあっさりと勝たせてはくれません。

48分。中央でチャナティップがボールを受け、右サイドに駒井に浮き球のパス。駒井もこれをダイレクトで折り返し、中央に詰めていた荒野が決めて同点に追い付かれました。

空中をダイレクトで使うアイデアとテンポの良さにヴィッセルDFは対応できず失点。最初の失点と同じく、GKが飛び出しづらい位置にボールが入ってきた点もポイントでした。

コンサドーレは後半、ヴィッセルの最終ラインの裏のスペースに狙いを定めていました。

実際に飯倉がボックスを飛び出して対応するシーンが多く、3CBとスリートップという噛み合わせての悪さも影響していたように思えます。

ただ、この試合のヴィッセルは悪い流れを自ら跳ね返す強さがありました。

62分。左サイドで酒井高徳がボールを奪うと、そのまま中央へドリブルしながらスルーパス。これを山口が滑り込みながら右足であわせて勝ち越しゴールを奪いました。

山口はこの試合2得点目。相手がややボール処理をミスした場面でのカウンターでしたが、ワンチャンスをしっかり決めきることができるのは、ここ数試合ゴールが奪えていなかったヴィッセルには朗報といえます。

攻撃システムの構築、とくにドウグラスをいかにチームに組み込むのかがヴィッセルにとって喫緊の課題でした。このゲームではドウグラスをポスト役に据えるというオプションにトライしています。

古橋が負傷交代した点は計算外でしたが、かえってこのトライを徹底できる状況が生まれたともいえます。右サイドの西への展開を意識していた点や、イニエスタとサンペールが縦関係を入れ替えることでマーカーを分散するなど、現状を打開するアクションを積極的に採用している点は評価すべきです。

また、ゲーム終盤に投入される交代選手は、スタメンとそん色ないプレーを披露。中でも郷家は試合ごとに存在感を増しており、貴重なオプションとして今後も重宝されそうです。

試合終盤、コンサドーレが仕掛けたドウグラス・オリヴェイラをのパワープレーも集中してしのぐことができました。苦手とされてきたコンサドーレを相手に、アウェイで勝ち点3を奪えたことは大きな成果といえるでしょう。

古橋の離脱をポジティブにとらえたい

さて、3-2で勝利したゲームで気になったのは、やはり古橋の負傷交代でしょう。

Jでも屈指のアタッカーとして抜群の存在感を放っていたプレイヤーの離脱は痛いですが、幸い怪我の程度は軽いとのこと。むしろ過密日程が続く今シーズンに限れば、疲労を抜くよいタイミングだったかもしれません。

また、チームにドウグラスをフィットさせるには、古橋の存在が「大きすぎた」可能性もありました。彼の得点力と打開力が抜きん出ていた中で、古橋頼りになっていた面は否めません。古橋不在という状況は、むしろチームとしてドウグラスを活かし、古橋頼りを打開する一手ともなり得ます。

もちろん早期の復帰を望んでいますが、チーム力の最大化を目指す過程としてはこの離脱をポジティブ捉え、次の戦いへと歩みを進めていきたいものです。




 

ABOUT ME
フットボールベア―
1987年生まれのクマみたいに大きい人。 日韓W杯に魅了されサッカーにどっぷりとハマる。学生時代を神戸で過ごしたことから、ヴィッセル神戸サポに。 2016年からはライターとして活動し、おもにEC系メディアを取り扱う。かねてからサッカー情報を発信したいと考えており、このサイトを立ち上げる。