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【マッチレビュー】天皇杯決勝 ヴィッセル神戸vs鹿島アントラーズ

ヴィッセル神戸のマッチレビュー
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2020年元旦。

ヴィッセル神戸の25年の歴史において、初めてタイトルを手にするチャンスがやってきました。

会場は新国立競技場、相手は常勝・鹿島アントラーズ。ヴィッセルの新しい歴史の扉を開くには、これ以上ない舞台です。

激動のクラブ史に栄光の星を刻むべく挑んだ、天皇杯決勝のマッチレビューをお届けします。




天皇杯決勝┃両チームのスタメン

天皇杯決勝のスタメン

ヴィッセルはシーズン終盤から、この天皇杯に照準を合わせて、コンディショニングを行ってきました。

リーグ戦では思い切ったターンオーバーを採用。天皇杯準決勝の清水エスパルス戦でも試合展開が優位とみるや、ポドルスキを温存して徹底的にリスクを排除してきました。

その甲斐あって、このゲームはほぼベストメンバーがスタメンに名を連ねます。この日が現役引退ゲームとなるビジャもコンディションが心配されましたが無事にベンチ入り。

そのビジャのポジションには藤本が起用され、ポドルスキも先発です。

一方の鹿島アントラーズは、コンディション不良が多くスタメンがギリギリまで予想できない状況にありました。

ただ常勝クラブのプライドをかけて何としても手にしたい天皇杯のタイトルです。土居がベンチスタートとなりましたが、それ以外は現状のベストと呼べる布陣を組んできました。

若手の関川や有馬がベンチに控えるなど、総力戦の構えです。

【前半】

この試合に向けての下馬評は、「経験に勝るアントラーズ」と「勢いの乗るヴィッセル」という構図。

それだけにヴィッセルとしては、ゲーム立ち上がりの入り方が重要なポイントとなっていました。

鹿島ペースで進むも徐々にヴィッセルがボールを握る展開に

前半開始早々は、アントラーズペースでゲームが進行します。

こういった大舞台での落ち着きはさすがで、クラブのDNAに強者のメンタルが根付いていることが伺えます。

一方のヴィッセルも、決して悪くはない入り方でした。

ボールこそ相手に握られるものの、イニエスタやポドルスキらがいつも通りのプレーを披露することでチーム全体が「通常運転」にシフト

山口や西といったタイトル経験者も、臆する様子もなく飄々とプレーしていました。

次第にボールをヴィッセルが握るようになると、持ち味の最終ラインからのビルドアップを披露します。

イニエスタはやや深い位置からドリブルやスルーパスで積極的に攻撃にスイッチを入れ、酒井は左サイドからは持ち前の運動量でさっそくチャンスを演出していました。

ポルディと古橋のポジションチェンジの狙い

この左サイドの攻めをより強めたのが、ポドルスキと古橋のポジションチェンジです。

スタート時は右にポドルスキ、左に古橋の並びでしたが、左サイド中心の攻めでややポドルスキが「消えて」しまう状況を受けて、早々にポジションチェンジ。

これにより、イニエスタ・酒井・ポドルスキのトライアングルが形成されると、左サイドは完全にヴィッセルの支配下となります。

これはポドルスキの攻撃力を引き出す狙いだけでなく、イニエスタへのマークの負担を軽減する狙いもあったと推測できます。

アントラーズは三竿とレオ・シルバの強力ダブルボランチが絶えずイニエスタを警戒し、ファールも辞さない形でプレスを仕掛けていました。

しかし、イニエスタ寄りの左サイド前方にポドルスキがいることで、イニエスタの前にもう1つボールの収めどころが生まれます。

イニエスタからしてみれば、ポドルスキに預ければ自分は自由に動くことができ、中盤からの攻撃参加に厚みを加えられるという訳です。

左サイドの突破から先制点を奪う

その成果がさっそく現れたのが、前半18分の先制点のシーンでした。

コーナー付近でポドルスキがドリブル突破を図ると、酒井がプレスを仕掛けてボールを奪いボックス内にドリブルで侵入。

そのまま中央に蹴り込もうとしたボールを、ポドルスキが引き継ぎシュート気味に左足を振り抜きます。

するとこのボールがアントラーズの犬飼の足に当たり、そのままゴールラインを割ってオウンゴールに。ヴィッセルにとっては大きな意味を持つ先制点を奪いました。

結果としてOGの判定でしたが、ポドルスキはそれを狙ってボールを蹴っていたでしょう。敵味方関係なく、あの場面では誰かに当たってゴールできればOKと判断する状況。

前線からの激しいプレスと、得点を奪うという高い意識が生んだ先制点でした。

それにしても、酒井とポドルスキの「ドイツコンビ」のフィジカルはヴィッセルの中でも群を抜いています。

インタビュー等で度々語られるように、あの強さをチームに植え付けてくれた酒井の加入はヴィッセルにとって本当に大きな補強となりました。

レオ・シルバを中心に反撃に出る鹿島

得点が生まれたことで、いよいよゲームが動き始めました。

鹿島はレオ・シルバが攻守にキーマンとして躍動。それに連動する形で、前線もヴィッセルの最終ラインへプレッシャーを掛けるなど守備の強度を高めていきます。

ただ、この時間帯流れをアントラーズに渡さなかったのは、ボールを繋ぐというポリシーを勇気を持って継続していたからでしょう。

飯倉や大崎を中心に、狭い局面でもなるべく蹴り出さないようにしてポゼッションを貫きます。

このポジティブな姿勢は守備にも好影響を与えており、ダンクレーやイニエスタが幾度となくインターセプトを披露しチャンスの芽を潰していました。

選手間の距離やポジションが適切に保たれていたのはもちろんですが、メンタル的に余裕を持てていた証とも言えるでしょう。

“ラッキーボーイ”藤本のゴールで追加点を奪う

この試合を振り返れば、藤本が決めた2点目は非常に大きな意味を持っていました。

38分。ヴィッセルの攻撃の流れから山口→西とボールが繋がり、右サイドから西が得意のアーリークロス。

中央の藤本を狙ったグラウンダーのボールは犬飼がクリアするかに思いましたが、ここでまさかのミス。

弾いたボールはゴール前に詰めていた藤本の足にそのまま当たり追加点を奪いました。

藤本は試合後に「ラッキーボーイ」と自身を形容したようにややラッキーな形での得点でしたが、あのポジションに諦めず走り込んでいたのはラッキーではないでしょう。

今季中盤以降は攻撃のユニットとして良好な関係を築いていた山口と西のコンビも、相手が戻る隙を与えないスピーディーな攻めでゴールを演出しました。

【後半】

前半を2-0と優位な形で折り返したヴィッセル。

しかし相手は鹿島アントラーズです。残り45分で何が起こるか分かりません。

まさにクラブの運命を左右する後半45分間です。

選手交代で鹿島が流れを引き寄せる

後半開始からアントラーズは、白崎に代えて土居を投入してきました。

この日はコンディション不良もありスタメンを外れていた土居ですが、2点ビハインドの展開に大岩監督もなりふり構っていられません。

土居はツートップ気味のポジションに入り、セルジ―ニョが本来の右SH、名古が左SHに移ります。この変化でアントラーズは流れを引き寄せていきました。

相手のマークを外すポジショニングが上手い土居の投入により、ヴィッセル守備陣は誰をマークすれば良いのか曖昧な状態に陥ってしまいます。

連動したプレスが機能せず、個人でマーカーに対処する状態に。57分にはサイドに釣り出されたダンクレーがイエローカードをもらうなど、落ち着かない時間帯が続きます。

鹿島ペースを加速されたイニエスタと名古の負傷

この展開にさらに拍車をかけたのが、イニエスタと名古の負傷でした。

まずイニエスタは後半途中に太もも裏を気にするような素ぶりを見せます。フィンクやメディカルスタッフと会話するシーンも見られるなど、軽度ながら負傷した様子でした。

これを見逃さないのがアントラーズのダブルボランチです。ここぞとばかりにレオ・シルバと三竿が中央を蹂躙すると、ゴール前まで持ち上がり攻勢を仕掛けていきます。

さらにアントラーズは名古が足首を痛めて途中交代。

このアクシデントで山本が投入されると、大岩監督は思い切って3バックにフォーメーションを変更してきました。

土居の投入に慌てていたヴィッセルは、この動きでさらに動揺してしまいます。大岩監督の采配はLSHの山本とRSHの永木を生かしたサイド攻撃が狙い。

サイドで後手に回っていたヴィッセルにとっては、苦しい展開となります。

なぜフィンクは選手交代を遅らせたのか?

アントラーズが幾度もチャンスを作る中、ヴィッセルのフィンク監督はなかなか選手交代のカード切りません。

72分には伊藤に代えて中村を投入し勝負に出た大岩監督とは対称的です。

では、なぜフィンクは選手交代を遅らせたのでしょうか?理由は大きく2つ考えられます。

1つ目は、イニエスタの状態がそれほど深刻ではなかったということ。

チームはあくまでも2点リードしている状態です。イニエスタはヴィッセルにとって戦術はもちろん精神的な支柱でもあります。

彼の抜群のスキルとタイトルを獲得してきた経験値を、1分でも長くピッチに残しておきたかったのでしょう。

こういったチームの核が交代すると、えてして試合展開が一気に崩れてしまうケース考えられ、フィンクはギリギリのタイミングを伺っていたはずです。

2つ目は、アントラーズのチーム状態です。

後半は終始相手ペースで進んでいますが、試合前の情報や実際にピッチでプレーしている状態から、相手のコンディションは決して良くないとフィンクは判断していたはずです。

早い段階で交代カードを切っているとなれば、終盤はスタミナ勝負の可能性もあります。

ヴィッセルのベンチメンバーにはスピードのある攻撃的な選手も控えており、仮に同点となってもそこに勝機があると睨んでいたのではないでしょうか。

「個の経験」がいかんなく発揮された終盤

この読み通り、試合終盤にはアントラーズ選手達の足が止まり始めます。

加えて、ヴィッセルも選手交代とフォーメーション変更にしっかり対応してきました。今季リーグ戦のヴィッセルは、リーグが進むにつれてこの適応力が深まっていきました。

攻守において選手達が自分達の判断で最適な答えを見つける。かつてのヴィッセルにも見られなかったことです。

この時間帯から際立っていたのが、経験豊富な「個」の存在でした。

イニエスタは負傷後スプリントこそ封印したものの、複数人に囲まれても持ち前のキープ力と巧みなボールコントロールで相手をかわしていました。

また、印象的だったのが酒井がスローインを入れようとしたシーン。

イニエスタが激しい口調で酒井に声をかけます。どうやらリスタートを遅らせろという指示だったようですが無理に試合を進めることをせず、時計を進めさせようという勝者のメンタリティを伺わせます。

その後も集中して相手のゲームを進めるヴィッセル。古橋や藤本、交代で入った田中らが前線から労を惜しまずプレスを仕掛けると、最終ラインの大崎やフェルマーレン、ダンクレーは身体を張ったシュートブロックを見せてくれました。

ビジャの投入で最高のフィナーレを迎える

刻一刻と進む時間と共に、いよいよ最高のフィナーレへと突入します。

ロスタイムには、今シーズン限りで引退を表明したビジャがポドルスキとの交代でピッチへ。

世界にほこる偉大なストライカーが、その最後のプレーを披露し終わると、高らかに主審が笛を吹きました。

この瞬間、ヴィッセル神戸の天皇杯優勝が決定!

クラブ創設25年目にして、悲願の初タイトルを手にしました。

このシーンをついに拝める日が来た!!!

長くフットボールに魅了されてきましたが、ずっと叶えられなかった夢がありました。

それは、自分の愛するクラブがタイトルを獲得し、満員の観衆に見守られたピッチで高々とシャーレやカップを掲げる光景を見るということ。

ヴィッセルを十数年以上応援し続け、幾度となく苦しい涙を流してきましたが、ついにこの光景を拝める日が来るとは…!!!

(試合後にはさまざまな感情が押し寄せてきて、1人涙しておりました…嬉泣)

激動のシーズンを最高の結果で終える

思えば、2019年シーズンも決して楽な戦いではありませんでした。

リージョ退任を前後してリーグ戦で7連敗。

VIP結成で日本中から注目を集めながらなす術もなく敗れる姿は、寿命を削り取られるような日々でした。

「金で勝利は買えない」と揶揄される度に、何度唇を噛みしめたことか…。

それでも、選手達は誰1人として諦めず、90分を全力で走り続けてきました。

そこに1人の指揮官が手を差に述べてくれた。

頼もしい助っ人達がそれをしっかり支え、このクラブにもう一度希望の光を与えてくれた。

その道のりが、天皇杯のタイトルへと繋がった─。

さぁトモニイコウ、アジアへ

さぁ、天皇杯を獲得して来季はいよいよACLに参戦です。

Jリーグからアジアの舞台へ。

ヴィッセルにとってハードなスケジュールの中、アジアの地で戦う経験は未知の世界と言えます。加えて、来季こそリーグでの躍進を果たしたい!

多くの困難と葛藤が待ちわびていることでしょう。それでも、このクラブは必ず乗り越えられる。

このクラブは、生まれたその瞬間にもっとも過酷な試練を乗り越えてきたのだから─。

2020年がヴィッセルにとって間違いなく意味のあるシーズンとなります。

その歩みを、ヴィッセルに関わるすべての人の一緒に支え、見守っていきましょう。

トモニイコウ!

(サポのみんなー!!!天皇杯勝ったぞーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!)



ABOUT ME
フットボールベア―
1987年生まれのクマみたいに大きい人。 日韓W杯に魅了されサッカーにどっぷりとハマる。学生時代を神戸で過ごしたことから、ヴィッセル神戸サポに。 2016年からはライターとして活動し、おもにEC系メディアを取り扱う。かねてからサッカー情報を発信したいと考えており、このサイトを立ち上げる。