若手主体で戦った大分戦から一週間。観客の入場が一部解除された最初のホーム戦は、清水エスパルスとの対戦です。
今回は、Jリーグ第5節のマッチレビューをお届けします。
【両チームのスタメン】
前節の大分トリニータ戦では若手主体でターンオーバーを採用したヴィッセル。
この日は休養明けのメンバーを含め、現状のベストと呼べる11人を起用してきました。
主力ではコンディション不良のフェルマーレンが欠場。代わりに渡部が左CBを務めます。
一方の清水エスパルスは、ダブルボランチの4-3-3の並び。
両サイドに突破力のある選手と揃え、攻撃的な戦術で挑みます。
【前半】
エスパルスは今シーズンから横浜Fマリノスでポステコグルーの参謀を務めた、ピーター・クラモフスキ―監督が就任。
志向するのは両サイドが大きく開き、ボールを握りながらゴールを目指す攻撃的なサッカーです。
前半の立ち上がりから、清水は両SBが高いポジションを取り、サイドに厚みを持たせる攻撃を展開します。両WGは中央に絞らず幅を作り、ハーフレーンを突く狙いです。
これはアンカーに入るサンペールの脇のスペースを突くことが目的。サンペールの起用はボール保持を高め組み立ての質を格段に向上させますが、守備の面では1対2の状況を作られやすい点がネックといえます。
ヴィッセルはこれに対して、相手の両SBが攻め上がった裏のスペースに狙いを定めます。後方からやや長い距離でもパスを出し、古橋と小川を走らせ単独突破や中央のドウグラスに合わせるスタイルです。
両者の狙いは、コインの裏表の関係にありました。清水はサイドに人数をかければ、スペースを突かれピンチが生まれます。しかし攻撃時にはSBとスリートップにトップ下の後藤を加えて6人で攻撃できる。対するヴィッセルはサイドのスペースを突けば一気に状況を打開できます。しかしサンペールの脇やサイドの守備対応は酒井・西に頼る状況となり、守備にリスクが生まれます。互いに攻撃に軸足を置いた戦術を採用するチームならではのスリリングな展開で、局面の攻防も激しさを増していました。
やや両サイドが押し込まれ、エスパルスが優勢かと思われた前半終了間際。セットプレーから先制したのはヴィッセルでした。
イニエスタがニアサイドに速いボールを蹴り込むと、古橋がうまく方向を変えるように頭を合わせてゴール。45分+2というまさに終了間際。欲しい時間帯に得点を奪う古橋の勝負強さには、エースの風格を感じました。
【後半】
前半を良い雰囲気で終えたヴィッセルは、後半もこの流れを継続します。
前半やや手詰まりだった中央の攻撃には、山口の飛び出しを追加。両サイドに引き付けるだけでなく、中央からイニエスタやサンペールが縦パスを狙うことで、相手の狙いを外していきます。
この辺りのボール繋ぎの精度は、やはりヴィッセルが上手という印象でした。エスパルスはスピーディーにボールを展開して相手のスペースを突きたかったのですが、大事な場面でパスミスが見られるなど、まだまだ戦術の熟成途中といったところでしょうか。
54分。相手の自陣左サイドでボールを奪うと、古橋が長い距離をドリブルで持ち上がります。
相手の陣形が整う前に早めにグラウンダーでボールを入れると、飛び出したドウグラスが長い足を伸ばして滑り込むようにしてゴール。マーカーのファン・ソッコの一歩前を取り、追加点を奪いました。
カウンターからの得点でしたが、狙いとしていた相手の攻め上がったスペースをしっかり突いた攻撃。加えて、古橋とドウグラスの関係性で奪った得点という点は、今後の戦いを見据える上でも大きな意味を持つ得点でした。
完全に流れを掴んがヴィッセルは、65分にも追加点を奪います。
イニエスタから左サイドを攻め上がっている酒井にスルーパスが通ると、中央にクロス。ドウグラスが頭で合わせますが、ボールはポストを叩きます。
しかし弾かれたボールに古橋が素早く反応してボールをコントロールすると、冷静に状況を見極めて左足でシュート。キーパーの股の下の射抜いてこの日2点目を奪いました。
前半の得点でも触れましたが、古橋の存在はスター揃いのチームの中でもひと際輝いて見えます。とくにサイドの攻防が鍵を握るこの試合では出色の出来で、得点ランキングでもトップに踊り出ています。このままコンディションを崩さず得点を量産していけば、個人タイトルも見えてくる…そんな期待感が高まります。
3-0と点差が開いてゲームですが、エスパルスも意地を見せます。
75分。途中交代で攻守に良い働きを見せていたヘナト・アウグストが左サイドで酒井にプレス。酒井はボールを中央に出し逃れようとしますが、これを相手の西澤に奪われてしまいそのままゴール。
酒井のパスミスというもったいない形での失点でした。点差が開き疲れも出てやや集中を欠いていたのはもちろんですが、相手が70分あたりから4トップに近い2トップを採用したことで、最終ラインがややバタついていたのも一因でしょう。
ただ、その後はサンペールが最終ラインに入り3バック気味で対応するなど、すぐに状況をコントロールした点は評価すべきポイントです。
試合はこのまま3-1で終了。今シーズン2つ目の勝ち星です。
選手層に厚みが生まれてきた
ほぼベストメンバーを起用して快勝したゲーム。やはり主力メンバーの実力はさすがですが、これまで控えに回っていたメンバーの成長も頼もしく映りました。
左CBで起用された渡部は、昨季は不慣れに感じられたこのポジションに見事アジャスト。対人の強さはもちろん、局面での落ち着きは守備の安定に大きく貢献しました。
途中出場した郷家と安井も、短い時間で存在感を発揮しています。とくに郷家は毎回違うポジションでもしっかり実力を発揮できる対応力がアップ。安井はサンペールやイニエスタと同様、ゲームのタクトを握る視野の広さを持っています。
前節では佐々木と小田がしっかりアピールしましたが、今節も控えメンバーがその高い能力をしっかり披露してくれました。
これから夏の暑さが本格化するシーズン。過密日程の影響もあり、チームの総合力が試される時期です。ただ、期待の若手や頼りになるベテランの活躍は、そうした不安を打ち払い、ワクワクする期待感を持たせてくれます。次節はアウェイでセレッソ大阪とのダービーマッチですが、今季初の連勝を目指してトモニ戦い抜きましょう!