【マッチレビュー】Jリーグ第14節ヴィッセル神戸vs湘南ベルマーレ

【マッチレビュー】Jリーグ第14節ヴィッセル神戸vs湘南ベルマーレ

タイトル奪取を目指した直近のルヴァンカップで、川崎フロンターレに0-6の大敗を喫したヴィッセル神戸。過密日程や故障者の続出といったエクスキューズはあったものの、完成度の高い川崎のサッカーに圧倒され、厳しい現実を突き付けられました。

精神的なダメージを払拭するためにも、欲しいのは勝ち点3。中2日で迎えるリーグ戦の相手は、湘南ベルマーレです。




マッチレビュー

ヴィッセル ベルマーレ スタメン

【得点】

(50分)湘南:大岩一貴  0-1

(53分)神戸:酒井 高徳  1-1

【選手交代】
(67分)

湘南:岡本 拓也→古林 将太

湘南:松田 天馬→平松 昇

(70分)

神戸:小田 裕太郎→小川 慶治朗

神戸:セルジ サンペール→安井 拓也

(79分)

湘南:齊藤 未月→茨田 陽生

(87分)

湘南:石原 直樹→根本 凌

湘南:石原 広教→田中 聡

右サイドでの酒井起用に窺えるフィンクの苦心

中2日で迎えた湘南ベルマーレ戦では、コンディション調整もかねて大幅な選手の入れ替えを採用。最終ラインは渡部を中心に右にダンクレー、左に故障から復帰のフェルマーレンを並べる3バックを敷きます。両WBには左に初瀬、右に酒井を配置。これまで一貫して左サイドで起用してきた酒井を右WBで使った点は、フィンク監督が選手のやり繰りに苦心している状況が窺えます。

ゲームは立ち上がりからヴィッセルがボールを握り、湘南がカウンターを狙う展開。湘南は守備の場面では両WBが下がり5バック気味で守りつつ、中盤も松田・金子・斉藤が横並びのスリーボランチにようになりブロックを形成。ヴィッセルはサンペールを中心にゲームを組み立てていきますが、湘南が素早くスペースを消してくるため、なかなか効果的な崩しには至りません。とくにファイナルサードへボールが入る回数が少なく、古橋や小田の単独突破頼みとなってしまいました。

やや流れが変わったのは前半の飲水タイム明け。両サイドの選手が横幅を広く取り、湘南のマーカーを引きつけ、少しずつスペースを広げにかかります。わずかな隙を狙いすましたサンペールのスルーパスや山口の縦パスを起点に、徐々に相手を押し込む展開が増えていきます。40分過ぎにはサンペール自らミドルシュートを放つなど攻撃を牽引。ただ、前半はゴールを奪うことができず、このまま0-0でハーフタイムを迎えます。

前がかりの展開で失点を喫する悪いパターン

後半立ち上がり、先に仕掛けてきたのは湘南でした。前半はやや控え気味だった積極的なプレッシングで前からボールを奪いにいきます。ヴィッセルもこの変化に対応して、パスのテンポがアップ。ワンタッチやツータッチでリズム良くボールを繋ぎ、試合全体のテンションが上がり始めます。47分には藤本がポストかすめる惜しいシュートを放つなど、得点の匂いも感じられました。

しかしこういった前がかりの展開から失点するのが、ヴィッセルの悪いパターン。50分。左サイドで相手CBの大岩がボールを奪うと、自らドリブルで持ち上がりカウンターを発動します。石原(直)にボールを預けると、そこから松田→金子→石原(広)と繋がり、最後は左からのクロスを大岩が頭で合わせて先制点を奪いました。湘南はボールを運びながら複数の選手が前線まで走り込み、後ろから連続して人が出てくる「らしさ」のある攻撃を展開しました。得点を決めたのが最初にボールを奪った大岩という点も特徴的で、ヴィッセル守備陣は選手を捕まえきれずに後手後手の対応を強いられてしまいました。

この攻撃のポイントは、湘南の選手が横並びで揃うことなく、斜めの位置でボールが受けたということ。このゲーム、ヴィッセルの藤本・小田・古橋のスリートップは、3人が同じ高さで並んでしまうことが多く、パスを出すコースが限定されるシーンが目立ちました。ボールを受ける前に誰から下がるだけでも相手のマークにギャップが生まれ、パサーの選択肢を増やすことができます。その意味では湘南の得点シーンはカウンターという違いはあるものの、ヴィッセルの課題を解消するヒントともなりうる形でした。

酒井の加入後初ゴールで同点

良い流れの中で失点してしまい、やや気落ちするかと心配しましたが、ここで輝きを放ったのが酒井高徳です。53分。サンペールがボールをキープしてタイミングを窺うと、右サイドに流れていた古橋に縦パスを供給。これに連動して酒井がゴール中央に向けて走り込むと、古橋がワンタッチで酒井にボールを落とし突破を図ります。酒井はボックス内に侵入すると、左足で巻き込むようにしてゴール左隅にシュート。美しい軌道で転がるグラウンダーのボールがネットを揺らし、同点に追い付きました。

サンペールがスイッチとなる縦パスを入れ、古橋がこれをやや半身の形で受けます。この半身の状態に相手マーカーは一瞬、古橋が縦にドリブルを仕掛けるかと予想。酒井への警戒感が薄れたことで、フリーでボールを繋ぐことができました。酒井の狙いすましたシュートもさすがで、国内最高峰のサイドプレイヤーであることをあらためて印象付けました。

同点となり、俄然両チームのテンションが高まる中、両指揮官は交代カードを使いもう1点を奪いに行きます。ヴィッセルは古橋や小川が惜しいシュート放ち、湘南もゴール前であわやというシーンを披露するなど、アグレッシブな展開が続きました。ただ、中2日のヴィッセルに対して、湘南は約2週間ぶりのゲーム。この差はラスト10分で如実にあらわれ、湘南が攻めるシーンが増えていきました。

この時間帯、良い働きをしていたのが前川です。この試合の前川は、持ち味のリーチの長さを活かしてハイボールをしっかり処理。シュートへの反応も落ち着いており、ボールをキャッチすることで相手選手が詰め込む隙を与えませんでした。また、ピンチの場面では積極的に前に飛び出し対応するなど、安定したプレーを披露していました。飯倉と足下の技術で比較されがちな前川ですが、彼の強みは恵まれたサイズを活かしたセービングと、精度の高いキックにあります。このゲームではその強みが良く発揮されており、安心して観ることができました。

選手を守るために、あえてレフェリングに苦言を呈す

さて、普段はレフェリーへの判定に対しては声をあげないようにしているのですが、この試合の終盤、球際でラフなシーンが目立つようになりました。湘南の斉藤がサンペールに足を削ったシーン以外にも、危ういシーンが散見されました。

今季からJリーグでは国際基準や戦術トレンドを反映するため、球際は極力笛を吹かないよう基準を変更しています。この方針には賛成で、むしろ今後日本サッカーがよりレベルアップを図るには必要な軌道修正でした。しかし一方で、レフェリーがあまりに笛を吹かないことで、試合がエキサイトするシーンが増えています。

この試合のように選手が負傷しかけないシーンや、ラフな傾向が続く場面はあえてゲームを切る判断をして、選手の頭をクールダウンさせることも必要でしょう。自分にとってレフェリーの笛は、プレーを判定するだけでなく、ゲームをコントロールし良質なプレーを引き出す点も重要な役割だと認識しています。

戦術の高度化や高速化、選手のフィジカル能力の向上により、レフェリーが正確なジャッジをくだすのは年々難易度が高まっています。VARやゴールラインテクノロジーはそうした部分を補うためのものですが、やはり選手の感情まで察する柔軟な舵取りは、人間にしか担えない部分です。選手を負傷から守るためにも、あえてこのゲームのレフェリングには苦言を呈ておきたいと思います。

いま必要なのはフィンクへのサポート表明

ゲームは両チームとも最後の決定打に欠け、1-1のドローで終了しました。リーグ戦では3試合連続の引き分けで、いずれも選手のコンディションが苦しい中で薄氷を踏むような歩みが続いています。

過密日程はまだまだ続き、残念ながら選手補強も期待できそうにありません。ただ、個人的にはフィンクが我慢しながら若手を起用し続け、ベテラン・中堅組も刺激を受けることでチーム全体の土台は強くなっている印象です。たしかに例年のようにビッグネームを獲得すれば、一時的な効果は期待できるでしょう。しかし、ヴィッセルというクラブが新しい階段を登り、真にクラブとして高みを目指すのであれば、生え抜きや若手を基盤としたチーム作りが絶対条件です。

今季は若手の活躍が不可欠だというコメントは、キャンプの段階から聞かれていただけに、クラブの方針としてはブレていないといえます。誤算だったのは、コロナ禍という未曽有の厄災により、かつてないスケジュールを強いられているということ。

いまもっとも必要なのは、この困難の状況を必死に乗り越え、打開しようと苦心するフィンクへのサポートでしょう。クラブが公式のアナウンスとして発表するといったアプローチも、1つの手段です。

主観的な印象ですが、ここ数試合のフィンクの表情には疲れや苦悩があらわれているように感じます。昨季あれほど悲惨な状況でチームを引き受け、ワールドクラスの選手たちを掌握し、ポジティブなマインドを植え付けたのは紛れもない彼の功績でしょう。天皇杯のタイトルも、その先に訪れた栄光でした。

クラブが新たなステージの向かうためにも、まさに「一致団結」。それはピッチレベルの話ではなく、ヴィッセルを支えるすべての人々が再確認しなければならないポイントではないでしょうか。